※鬼太郎が高校生・俺は人間・鬼太郎の父は料理上手
「俺、お前の父さんと結婚するから」
昼休憩の裏庭。俺と田中は花壇の縁に腰かけ昼メシを食っていた。
「今まで女子の尻ばっか追い回してたのに、今度は男に行くのか。見境のないやつ」
「独身だろ?優しいし料理も上手いし尻見てたらなんかムラムラしてさ。俺、余裕で抱けるわ」俺が話す隣で田中がむしゃむしゃと弁当を食らっている。あの人の手作りだ。
俺は田中家に一泊したことがある。それからというもの俺はあの人の虜だ。
料理上手で優しく、話もウィットに富んでいる。年は四十と聞いているがそれよりも若く見える。スタイル抜群で、肌は真っ白できめ細かく、いつしか台所に立つ後ろ姿に俺は欲情するようになった。普段は女の子以外はお断りだが、あの人なら抱ける。余裕で。
「てか、他に無いのかよ。父親のこと性的な目で見られてんだぜ」俺は田中の様子を伺う。
「いや、特に……不毛だなと」田中はそう言うと、卵焼きを一口で食う。
「何だと!」
取るに足らないということか。俄然燃えてきた。
「くそ、舐めやがって。今日も行くからな!」
「また?来すぎじゃない。別にいいけど」
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「ごちそうさまでした!」
食器を重ねて台所に持っていく。台所にはあの人が立っていた。「お皿洗います」「おお、誠くん。ありがとう」
銀色のシンクにはグラスが置かれていた。縁を青白くて長い指がなぞっている。
「お酒ですか?」
「焼酎じゃ」
呼気に混ざって仄かなアルコールの香りが漂ってくる。この人に完全に惚れてる俺にとってその香りは魅惑的で、話しているだけでいつもより浮ついた気分になってしまう。
「そういえば、お父さんの好きな食べ物はなんです?」
居間から「お前の父さんじゃないぞ」と田中の声が聞こえる。俺は無視することにした。
「そうじゃのう……」
そう言った彼は、心ここにあらずと言った様子である。そういえば、さっきからソワソワと落ち着きが無い。俺は彼の顔を覗き込む。
「どうしたんですか?」
「ほッ!」
大きな声に俺の体が跳ねる。隣にいた大きな体がコンロにのめり込み、その手は何かを掴んでいた。
「よし、捕まえた。好物の話じゃったか」
「え?あ、はい」
「こいつなんか、なかなか好きじゃぞ。さっと炙るといい香りでのう」
開いた手のひらには、ムカデが蠢いていた。
「う、うわあ!」
素っ頓狂な俺の声を無視し、彼は徐ろにコンロの火をつけた。小さな火にムカデの尻を近づける。ムカデはキュー、と悲鳴だか水分が蒸発する音だかよく分からない音を発していた。胴体をくねらせ指に噛みつき逃げようと抵抗する。彼は噛まれようとお構い無しにムカデを炙る。俺は衝撃でその場から動けなかった。
「おお、暴れるな。頭は焼きたくない」
海老のような、何とも言えない臭いが鼻をつく。ムカデの動きが弱まってきた。彼はコンロの火を止め、焦げた尻を摘む。
「頭部の毒は良い酒のアテになる。舌がぴりっとして……」
そう言って彼はムカデを口に放り込んだ。俺は走って田中家から逃げた。
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誠と入れ違いで鬼太郎が台所を覗きに来た。
「どうしたんですか?あいつ、走って出て行っちまった」
「何じゃ、昆虫食は近頃のトレンドだと言うに」
「イナゴでも出したんですか?」
あの後、成人した誠は特殊性癖を取り扱うAVレーベルを立ち上げた。そして、虫責め等の度重なる女優への虐待によって懲役18年を言い渡され、今では塀の中である。
おしまい