数か月前から姿を見せない父親を案じてあちこちを捜し回る僕に仲間達はそう言った。
確かに父さんは強い。しかし、七十年間カルガモの雛のようについて離れなかった父さんのことを考えると、これほど長い間不在にするのは僕が生まれて以来初めての事だ。異常事態と言えるだろう。
僕がこうやって手を拱いている間にひどい目に遭っているのではないだろうか?もしかすると今までとは比べものにならないほど強い敵に襲われ傷を負い、何処かに身を隠しているのかもしれない。それか父さんがしょっちゅう話す鬼道衆に残党でもいて、誘拐されて拷問でも受けている可能性もある。嫌な想像が止まらない。
肩を叩かれ顔を上げると皆が心配そうに僕のことを見ていた。
「鬼太郎、親父を心配するのもわかるが根を詰めすぎだ。俺らも探してるから少し休んでくれ。親父が見つかる前にお前がくたばっちまったら親父に合わせる顔がないよ」
「……」
不安は増すばかりだが何の手がかりもない以上、その言葉に頷くしかなかった。
***
翌朝、妖怪ポストに差出人不明の手紙が一通入っていた。中には地図が一枚封入され、小さな建物が赤いマーカーペンで囲まれている。ここに何かあるのだろうか。僕は怪しく思いつつ地図に従うことに決めた。
たどり着いた建物は倉庫のようだった。扉には南京錠が開錠されたままぶら下がっており、地面には何かを引き摺ったような跡がついている。
その光景は父さんに連れられて行った映画のワンシーンを想起させた。映画だと、この中に人間の死体があるのだ。
僕は扉に近づいた。扉から少し見える隙間から、こちらを警戒する何者かの気配を感じた。重い扉を慎重にスライドさせ、そっと中の様子を窺う。
そこはコンクリートで作られた狭い空間だった。冷たく湿った空気を肌に感じる。日の光に照らされた埃っぽい部屋の中央に何かが横たわっていた。
それが父さんだとわかった瞬間、全身の血の気が引いた。
久々に見た父さんには手足が無かった。

「父さん、父さん!」
僕は縺れる脚を動かし父さんに駆け寄って地べたを這いつくばった。
不自然に膨らんでいる腹が、低くなった視界に入った。以前父さんと一緒に会った餓鬼のことを思い出す。栄養失調だろうか。
僕は思わずその腹に触れる。しかし、内側に何かが脈動しているのを感じ咄嗟に手を引いた。
驚いて父さんの顔を凝視する。父さんは諦めたような表情で静かに僕から目を反らした。
震える手で父さんを抱き起こせば、二メートル近い恵まれた体躯を持っていた父さんは僕の背丈よりも小さくなっていた。
僕は今にも叫び出したい衝動をねじ伏せて、「一体何があったのですか。誰にやられたのですか」と父さんに問いかけた。
父さんは困った様子で「心配を掛けたのう、鬼太郎」とだけ答えた。